「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は、株式会社スーパーホテル 経営品質本部/デジタルマーケティング部 芦村尚悟さん、建設企画部 泉尾賢司さんのホテル運営の姿勢を「TEAM EXPO 2025」プログラムの共創チャレンジ事例から紐解き、続ける・つながる「サス活」を探ります。
ライター 腰塚安菜
チームの1ゴール:
地域を活性化し、共存・共栄するホテルが出来るSDGs。
今回の取材先は読者の皆さんにも馴染みのある株式会社スーパーホテル。ホテル業界でもサステナブルな取組みの導入が進んでいる。そこで今回は「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジのエントリー事例に関わった経営品質本部/デジタルマーケティング部 芦村尚悟さん、建設企画部 泉尾賢司さんに取材に応じていただいた。
■「LOHAS」からSDGsへ。会長 山本氏の姿勢をそのままにブランド進化
国内に170店舗を展開するスーパーホテルの予約サイトを開くと「スーパーホテルは持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています」という宣言が現れる。
自分の近隣を歩いたり、調べたりしているうちに、地域ごとに様々な業態があることが解ってきたが「Natural, Organic, Smart」というコンセプトに、私は取材前から関心を寄せていた。
業界で先進的な環境保全の取組み企業を選ぶ環境大臣認定「エコ・ファースト企業」として、SDGs支援を掲げる前から「スーパーホテルLohas」の名称で「健康」「環境」を他のホテルチェーンと差別化してきたスーパーホテル。
「LOHAS」は当時の環境キーワードの流行語であったため、新しいコンセプトでリスタートをきるに踏み切ったという。
その後のホテルブランディングに大きく貢献した一人が、本取材に応じて頂いた芦村さんだ。
「Natural、Organic、Smart」は、誰にでもわかりやすく健康・環境への姿勢が示せる端的な英語の並びではあるが、企画側の高い意識のみで考案されたコンセプトではなく、宿泊客の声を活かし、他のホテルチェーンにない自社の強みを熟慮した上、この三つの柱が生まれたことがわかった。
芦村さんは「まず、これまでの『LOHAS』がホテルサービスのどこに紐づいているかを確かめるため、グループインタビューやお客様の声を反映させ、さらに社内30代以下アンケートを行い『Natural』『Organic』が選ばれた。
地球と人にやさしいホテルという想いから「Sustainable」も候補にあったが、環境に配慮したシンプルなサービスを割得で賢く選択していただくという観点で『Smart』になった」と決定までの経緯を説明してくれた。
そんなスーパーホテルで展開される環境配慮型ホテルづくりの取り組みは、全店共通施策・あるいは各地域店舗ごと、実に多岐にわたる。
宿泊に伴い発生するCO2排出量の100%をお客様に代わりカーボンオフセットする宿泊プラン「エコ泊」は2010年から、宿泊客参加型で、客室アメニティの歯ブラシ返納に協力するとホテルからプレゼントのサービスをする「エコひいき」は2008年から続けられてきた全店での環境へのアプローチだ。
地域ごとの店舗で展開される「SDGsプラン」もシンボリックな施策が目立つ。
御殿場Ⅱ号館店、Premier銀座店などでは宿泊客が不要となった衣類を提供することでホテルから寄付に協力できる「古着 deワクチン」参加型(日本リユースシステム株式会社の協力)など、宿泊料金の収益の一部をコラボ先に寄付するチャリティ付プランは、日常の延長線上で出来るハードルの高くない施策で、筆者も参加してみたい外部とのコラボだ。
こうした施策展開の裏側を芦村さんに聞くと、店舗の支配人からのボトムアップで提案・実現している「SDGsプラン」もあるそうだ。
スーパーホテルが掲げてきた「自律型感動人間」の精神がここにも反映されていると感じられた。
■スーパーホテルの地域密着型SDGs。TEAM EXPO 2025に懸ける2つの取り組み
共創チャレンジのエントリー事例の一つで「地域のコミュニティと共に」を押し出していることについて芦村さんに詳しく伺った。
「(うちは)全国にあるチェーンホテルだが、地域ごとの店が生かされていくために、地域の企業や観光とのつながりを重視。『地域の中で一番選んでいただくホテルになろう』。地域と共存していくことが、会社としてのゴール」。
モデルケースとなっているスーパーホテルPremier武蔵小杉駅前店の協働先「はぐるまの会」(※1)は、コンポストの取り組みによって出る堆肥を必要としている企業や団体がないか川崎市の担当者に相談し、紹介を受けたという。
その後、とんとん拍子に話は進み、ホテルの朝食残渣(後段に詳細)を活用した「スーパーホテルの堆肥」を川崎市多摩区の「はぐるまファーム」に提供し、無農薬野菜作りへ協力する取り組みに繋がっていった。
(※1)川崎市の社会福祉法人。障がいを持つ方々が集団生活で自立していくことを目指し、地域交流活動として福祉施設の農業活動を実施。地元の協力者が支える「都市型福祉農園」はぐるま工房(宮前区)は野菜収穫祭などの農園体験イベントなどを行っている。
一方で、スーパーホテルPremier帯広駅前店をエントリーした背景やいきさつは、担当した泉尾さんが詳しく話してくれた。
この店舗では客室に十勝平野の自然に育まれる地域材の「なら材」が使用されていることも特徴だが、協働パートナーの株式会社ワイス・ワイスとはどのように出会ったのかについても訊いた。
こうした地域材の活用は、帯広駅前店だけではなく石川県の県木「能登ヒバ」を使用するPremier金沢駅東口店、首都圏では大宮、下関や宮崎などの店舗でも展開されているそうだ。
木材が客室空間などにさりげなくインテリアになる役割だけでなく「森・自然・文化に還元する」ホテルの地域貢献姿勢が裏付られていることで、宿泊客とスタッフ間のコミュニケーションにも寄与している。
泉尾さんは「(自分は)本部としてこの会議に関わることで考えてきたが、会議に参加しない地域の現場の支配人とも密にコミュニケーションをとりながら進めていった」とも補足。
現場のスタッフを巻き込むことに加え、ホテル側の想いに応えた協働企業や地元の家具職人が一丸となりスーパーホテルが目指す「木材の地産地消」を実現していったことがわかる。
■「健康」「環境」に配慮したホテル化の一端を店舗で体験する
オンライン取材の前に、私は今回の共創チャレンジの一端を担うPremier武蔵小杉駅前店で「スーパーホテルの健康朝食」を体験してきた。
ホテルコンセプトの「Organic」を象徴する有機JASの認定野菜が盛りだくさんのサラダブッフェは、朝の目覚めたばかりの体に隅々まで栄養をいきわたらせてくれるようで、舌も心も満足した。
この店舗では前述した通り、朝食会場で出る生ごみ(残渣)を活用し、ファームに堆肥を提供することで無農薬野菜作りにも協力している。
現地で支配人に見せてもらうと、朝食会場の裏に「バイオ生ごみ処理機」が設けられていた。入れられた残渣が24時間経つとオーガニックな堆肥化が出来ているそうだ。
アンダーコロナのホテルの朝食ブッフェは、他のどんな施設にも通じるが、マスクの付け外しやビニール手袋を用いての実施など(※取材当時)、提供側も宿泊者も緊張する瞬間。
そんな緊張感をほぐしてくれるような朝食で、ホテルが作る堆肥が、ホテルの地元で活かされるという、宿泊客にも伝わりやすい循環型の取り組み。そんな情報を得てから臨んだことで、この日の朝食ブッフェはさらにフレッシュな体験となった。
これに終わらず、後日のオンライン取材では「健康」「環境」の先の食のサステナビリティを目指す取り組みが進行中であることも知った。
芦村さんの話から「(ホテルとして)フードロス削減にも、何かアプローチは出来ないか」「ホテルで地元農家の規格外野菜を扱い、宿泊客に持ち帰ってもらうことはできないか」。など、アイデアの種が次々と飛びだす。
「一部の店舗で食品残渣を活用してできた食器『Edish(エディッシュ)』(※2)の導入を決めたのは、食器洗浄にかかる環境影響も考えて」。筆者が盲点だった、ホテルならではの環境課題発見だと感じられた。
(※2)丸紅株式会社のビジネスプランコンテストから生まれた食品廃材をアップサイクルした「循環型食器」。2020年から各地の施設、イベントなどで導入の実証実験が行われている。
また、2022年6月に発表し、ニュース話題となった事例では、フードシェアリングアプリ「TABETE(※3)」の導入により、朝食ブッフェでどうしても廃棄されてしまう「まだ美味しい残り物」を安全で美味しいうちにお弁当の形でユーザーに届けるというサービスがある。
筆者が体験した朝食ブッフェの料理が最後まで無駄なく美味しく、別の形でも活躍していることを知り、ますます嬉しくなった。
(※3)廃棄の危機に面している食事をユーザーとマッチングする「フードシェアリング」サービスで食品ロス削減にアプローチするアプリ。
SUPER HOTELからの続ける・つながるアクション提案:
SDGsという大きな目標を、まずは地域から。
「ホテルとは、地域に活かされている創地産業。二十年、三十年とその場所で過ごしていくものなので、地域と一緒に成長していく必要がある。地域と共存・共栄することが、会社として目指すゴールだと思っている」と話した芦村さん。
「(企画側の)自己満足になってしまわずに、いかに周りに伝えていけるか」を取り組み創造の基本とし、なるべく顧客参加型で、少しでもお客様に理解していただくことを重視している。
「(SDGsの支援に向けた取り組みも)少しずつ取り組み意義が理解されて、他社との差別化で選んでいただいているという実感がある」と前向きに伝えてくれた。
「SNSを介して顧客の口コミやレスポンスが可視化してきたことで、立地や価格だけでない他の選択肢でホテルを指名する人も増えている」と芦村さん。取材の最後に、最近、宿泊客に好評だったという魅力的な取り組みを紹介してもらった。それが、コロナ下に生まれたサービス「ウェルカムバー」だ。
これは、集って飲食する機会が減った中、ラウンジを設けて地酒やワイン、ウイスキーなどを宿泊客に無料サービスするというもので、ビジネス客を中心に、お酒やコーヒーを飲みながら仕事をしたり、会話を楽しんだりしたいという需要に応えた。単発のイベントではなく、全国7割程度の店舗で導入され、ほぼ常設のサービスとなっているとも聞いて驚いた。
「諸塚村産のモザイク林で育ったなら材をスティック状にし、ウイスキーに漬けこむことで、ひと味違う風味が生まれるんです。それをお客様に召し上がっていただくと『これ、何?』と会話が生まれ、諸塚村のアピールにも繋がって」と楽しそうにエピソードを語った泉尾さん。
こうした話題が宿泊客にユニークに映り、各地のウェルカムバーを盛り上げているに違いない。
スーパーホテルでは店舗ごとの取り組みを表彰する「ベストプラクティス制度」も設けられている。ここで認められたアイデアは、各店から全国展開も目指せるそうだ。「小さく生んで、大きく育てる」教育精神で、現場で生まれた個人のアイデアの種が広がり、次代の店舗での取り組みが創られていくイメージが出来た。
同社では今年度の採用活動が始まったばかりだが、2023年度の新入社員たちからもイノベーティブな「ホテルビジネス×SDGs」アイデアの種が育っていくだろう。自分のアイデアがまず街のホテルから実現し、全国の店舗で展開されることに野心を持つ若者が応募してきたら素敵だ。
ホテル業界にまつわる気がかりな話題に目を向けると、新聞社・通信社が行った調査ではウィズ・コロナの2年間で、国内のホテルや旅行会社の5000が閉業に追い込まれた可能性があるという。
しかしそんな逆風に屈せず、サービスを介してホテルスタッフとお客様の間で生まれる感動は、地域で次々と生まれていくだろう。
ホテルビジネスのポジティブな未来に胸を膨らませた取材だった。
ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。
SUPER HOTEL(店舗)の共創チャレンジは、以下2つのリンクから。
https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/340
https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/321
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