みんなの投稿

フリーワード

SDGsの取組内容

みんなの投稿一覧

「TEAM EXPO 2025」プログラムに参加されているみなさんからの投稿です。

  • サステナブルなMICEの推進を、笑顔から。

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は、イベントの運営、施工を通じてサステナブルなMICE(*)の推進をめざすサクラインターナショナル株式会社の皆さんの共創チャレンジと続ける・つながる「サス活」を探ります。 (*)MICEとはMeeting, Incentive Travel, Convention, Exhibition/Event の頭文字を使ったビジネスイベントの総称。(JNTOのホームページより)   ライター 腰塚安菜   チームの1ゴール: サステナブルなMICEの推進を、笑顔から。   2023年が始まり、催しは全般的に活気を取り戻しつつある。日本政府観光局(以下、JNTO)によると、2022年12月の訪日外国人数は137万人。コロナ流行前の2019年12月が252万6千人弱ほどだったということで、完全に元通りとは言えないものの、翌年2020年12月が5万8千700人(前年同月比97.7%減)だった当時を振り返ると、国際往来も順調に回復だ。そんな復調の兆しが見られる昨今の環境も取材動機の一つ。コロナ前、国内外でのリアルな催しへの参加がライフワークだった筆者は、最新の現場の話が伺えるのではと取材前から期待を寄せていた。   サクラインターナショナル株式会社は世界中で行われている「MICE」の、企画・デザイン・製作・運営 維持管理を行い、クライアントの機会創出をプロデュース、サポートを行うサービス企業。今回は同社の奈良工場から生産本部の浦久保誠さん、大阪本社から生産本部の東悠平さん、クリエイティブの酒田充規さんに出席いただいた。   はじめに「MICE」とは何か?改めて、読者に説明する必要があるだろう。 JNTOによると、Meeting、Incentive Travel、Convention、Exhibition/Eventの頭文字をとったビジネスイベントの総称で、オリンピックなどの大規模なスポーツイベント、そしてもちろん2025年の万博も、多数のビジネスセクターが今から関心を寄せる催しの一つに含まれる。 生活者として馴染みのある代表例に、国内外の展示場などで開かれる食品、化粧品などの身近な商材や、建築資材などのB to  Bの商材までカバーする「見本市」があるだろう。   これを読む読者の方々が企業の方や万博に何らか関係する方が多いことを予想すると、出展者側の経験がある方もいれば、SDGsもひとつの例に、開催されるテーマへの学びを深める目的、国内外のトレンドを知る目的、関連する商品の味や手触りを確認する目的など、参加者として見て回った経験のある方も多いだろう。 つまり「MICE」との接点は、誰もが少なからず持っていると言える。 サクラインターナショナル社の万博チームが「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジに登録する「サステナブルなMICEの推進」とは。同社が生業の中で目指す具体像はどのようなものなのか。 制作現場を支える企業視点、来る万博の参加者視点双方でMICE・イベントのサステナブル化のポイントを紐解く。   ■MICE・イベント業界に「サステナブル」を投げかける  1980年に設立し、1990年代から太陽光発電、2000年当初からハイブリッドカーを採用するなど、再生可能エネルギーの話題が生活者に浸透する前からパイオニア企業となってきたサクラインターナショナル株式会社。 社会状況に合わせて社長と社員が協議し、変化させてきたという同社のロゴに、現在は「The Green Glocal BUSINESS Producer」という言葉が掲げられている。その「Green」(環境配慮)には、社長の「もったいない精神」がコアにあるそうだ。 MICEのE、主軸であるイベント事業で使用されるブースやディスプレイ資材の再利用システムを独自に採用し、什器やパネルなどを自社工場で保管し、次のイベントでもリユースする仕組みも整えてきた。   「展示会などは数日開催した後、撤去の際にごみとして捨てられるものが多い。(イベントの)施工から撤去までを一貫して扱っている当社では、どうしてもごみは出てしまうため、いかに環境負荷を減らす形で消化するかは課題。廃棄が前提ではなく、環境効率をより高く、高品質なものをリユースしていただくことはできないかと、常日頃考えている。」と東さん。 来場者だけでなく、時に運営や企画の一人ともなることも多い筆者は、企業人という視点、参加者視点の双方を行き来しながらお話を伺っていたが、これに関してはとても共感する。 イベントの土台となる設計、施工段階など、表から見えない部分まで含めて「サステナブル」なイベントの実現は、制作者の視点に立つと容易ではなく、スタッフの努力は計り知れない。また、イベントの表を体験する来場客には、どうしてもケアレスになりがちで、想像し得ない部分でもある。   「もちろん、環境に優しい素材は一般的にコストがかかるので採用に至らない場合も多い。だからこそ、我々が提案していきたい。」と東さんはとても前向きで挑戦的な様子。 「トライ&エラーをしていくことが会社を前に進めている。今後も社長の投げかけたことに対して柔軟に対応する姿勢を取りたい。」と酒田さん。 それぞれの言葉から、イベント制作従事者としての誇りや、企業のパートナーとしての信頼感を感じた。   ■未来を見据えて、イベント現場の海外人材を育成。 「Green」だけでなく「Glocal」の面に力を入れていることも、同社の特徴だ。これについては奈良工場の浦久保さんから詳しく説明があった。 (*)Glocalは「グローバル」と「ローカル」を組み合わせた造語で、地球規模で考え、地域視点で行動する“Think globally, act locally”に基づく考え方。 「事業の位置づけではないが、日本のイベントスタッフに関わり、施工技能を習得した後、自国に帰ってからも現地のMICE事業に従事出来るような人材を育成しようと、3年前から厚労省の検定制度に参加。コロナ禍に動きが止まった部分もあったものの、認可が取れ次第、本格的に着手していきたい。」 タイ、フィリピン、カンボジア、インドネシア、ベトナム、マレーシア、ミャンマーなどアジア各国から来日した国際人材が協力会社のスタッフとして現場施工に入り、日本で身につけた技術を故郷に持ち帰り、自国の現場でも施工技術を活かし、MICE事業が発展していくことを見据えているという。 単発の国際協力ではなく、中長期的な視点で「世界全体でMICE事業を盛り上げたい」と期待を寄せての取組だ。 「幅広い国際人材の登用を早くから行ってきた当社では、スタッフ間での言語コミュニケーション上の障害はあまり感じられない。強いて言えば、施工・技術の基準など、日本には日本のスタンダードがあるが、東南アジアやアメリカなど各国で異なる。『MICEに関わるスタンダード』を敷く仕組みをつくることが、今後の課題だと考えている。」と浦久保さん。 現場から見える課題は、文化・慣習など異なる上で国際交流や商談を行うビジネスコミュニケーションの課題だけでなく、国ごとのイベント基準づくりにまで及び、同社の共創チャレンジに掲げる目標8に直結する取組であると捉えられた。    ■2025年の未来のイベントに、どんなアプローチが出来るか。 「グリーンな万博」は達成なるのか。サステナビリティに関わる企業のプレイヤーや生活者は今、誰もが気になっているだろう。 同社で万博チームを編成する東さん、酒田さん、浦久保さんが「大阪・関西万博について話題が出るのは、ほぼ毎日。」と話したことが印象的だった。 そこで、まだ筆者も漠然としている「2025年の未来のイベントづくり」について、さらにディスカッションを続けた。 「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジの取組にSDGsの目標7、8、15の3つを掲げており、同社の取組とどれも解りやすく結びつけられていると感じたが、新しい目標に着手する可能性も大いにあるという。 イベントから出るロスの活用というゴールに向けて企業とコラボレートするなど、水面下で新しい協働先とのチャレンジも進んでいるという。2025年の未来に向けたイベント制作で、同社とコラボを希望する企業や個人が「グリーンな万博」のためにアイデアを持ち寄る余地はまだまだありそうだ。   酒田さんからは「未来」につながる目標も出た。 「ライフワークは、子どもたちが楽しく参加できて、本気で楽しめるイベントをつくり続けること。未来を見据えられるようなイベントを、大人が本気で考えていきたい。さらに、これからは『過剰供給』ではなく『適正供給』でつくっていくことが時代に合っている。我々つくり手からの提案や、参加者からの声も、より多く取り入れることが出来たら、未来のイベントと言えるのではないか。」 主催者、企業、参加者がそれぞれの視点でフェアにアイデアを出し合って制作することは、SDGs時代のイベントの基本的な考え方と言えるだろう。取材後半のディスカッションで、そんなヒントを得た。   サクラインターナショナル株式会社からの続ける・つながるアクション提案: 「With A Smile」の追求を、ビジネスにつなげていく。   「最終的にSDGsの達成を目標とするにしても、まず『With a Smile』」と浦久保さんが話したことで、東さん、酒田さんも「相違ない」という様子だった。 「SDGsを提案のすべてに盛り込んでいるが、見える形でSDGsを標榜するのではなく、お客様が知らず知らず資材などを使って、結果的にSDGsにつながるイベントの提案が出来ていることが望ましい。」と浦久保さんは続けた。 取材の中では「笑顔」というキーワードが何度も繰り返され、これを読むどんな企業や団体もすぐに着手出来るスモールステップを提案してくれたことで、これが同社の「サス活」だと確信できた。 「企業活動としてサステナブルなイベント制作を目指しているが、まずは笑顔というシンプルな目標から始めて、新しい気付きや発見があれば、それを目標化していく。そのような進め方が自社に合っていると思う。」と酒田さん。 東さんは「まずは社内を笑顔にすることから始め、ビジネスに生かしていきたい。」その具体例に「会社で自分が育休を取得した第1号(社員)。その後社内でもスムーズに広がった。」と話してくれ、緊張感のあった取材の空気が一気に和んだ。 浦久保さんは自社の事業と結び付けて「リユース・リサイクルは当たり前。次に再利用する方が、どんな笑顔で使っていただけるか?までを考慮する。建築廃材をどこかの笑顔に結び付けられないか?と考え、廃材を再利用するだけでなく、企業と組んで新たな商材開発も始めているところ」と話したことも印象的で、同社らしい取組み方だと感じられた。 多国籍を相手にするMICEビジネス、それぞれに文化や風習が違う上で、笑顔は万国共通の“武器”となるだろう。 SDGsの達成や万博の成功といった大きな目標の前提に、笑顔を原動力に催しを支えるという自社の姿勢を関係者に広めることまで含めて、チームの「サス活」であると言える。   これは取材後記となるが、どんな催しにも裏側の努力がある。「サステナブル」を掲げて実施・運営する上で、スタッフの一人として現場に問題意識を持つことから始め、制作の裏側の「あたりまえ」が変わることにも期待したい。 最後に浦久保さんが紹介してくれた新しい人材育成の話にもワクワクした。 「今年4月の新入社員や海外人材から『サステナブルなイベント制作』への目を養ってもらおうと考えている。現場で実際に環境負荷やイベントのロスの課題などを学び、設計や企画の段階から考えてもらう。ごみを最小限にするデザインなどをクライアントとの協議で提案が出来る人材を育成するため。」   来場者の知らない部分でも、未来のイベントの担い手にサステナビリティの視点が加わっていくことで、2025年の未来につながり「グリーンな万博」の実現にもつながっていくのではないだろうか。 今回は、外からは見えざる努力でイベントのサステナブル化に貢献している社のキーパーソンたちが集合した取材で、現場側から見た現状課題や未来のイベント制作への率直な思いに迫ることができた。     取材にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。   サクラインターナショナル株式会社の共創チャレンジ「サステナブルなMICEを推進する」 https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/776 企業サイトはこちら

    続きをみる

  • 病院を中心とした幸福(Happy)と健康(Health)が両立するまちづくり。

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は医療機関が中心となり、西淀川区、大学、企業が一丸で、ハッピー×ヘルシーなまちづくりをめざす「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジ「イネーブリングシティー西淀川プロジェクト」を取材。にじくじらチームの目標、続ける・つながる「サス活」を探ります。 ライター 腰塚安菜   チームの1ゴール: 病院を中心とした幸福(Happy)と健康(Health)が両立するまちづくり。   「イネーブリングシティー西淀川区プロジェクト」は、千船病院を中心とした多様な顔ぶれが参加する「にじくじらチーム」の共創チャレンジ。「くじら」の形をした大阪・西淀川区のシンボルに、多様性のモチーフでもある「虹」で、今年9月に創刊した千船病院の広報誌『虹くじら』とも連動するチーム名だ。 プロジェクトの中心存在である病院と西淀川区の連携のいきさつに、千船病院 中山健太郎 事務部長から西淀川区 中島政人区長へ「病院も積極的にまちづくりに関わりたい」という提案があったという。   「病気をどう防いでいくかを思案している際『区民の生活の場へ病院がもっと参画するべきだ』と考えた。病気に無意識な状態だと(病気を)初期段階で見つけられず、病院に来た時には手遅れとなってしまうことも。区民の病院、病気に対するリテラシーを高める狙いもあった」。そう話すのは千船病院職員で、現在は横浜市立大学との共同研究員として出向中の村田尚寛さん(リハビリテーション科 科長)。   区民参加型の企画やイベントに積極的に関わるようになったのは「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジへ登録した2021年から2022年にかけて。村田さんは「まずは、病院として、区主導のイベントに何も参加できていなかった状態から『区民まつり』や『健康いきいき展』などのイベントなどに積極的に参加することを目指した。」と話した。取材が行われた12月初旬の週末には、病院前広場での「福ハッピーフェスタ」を開催。現在は、病院主催でイベントを実施するまでに発展した。 写真も見せてもらったが、子どもたちがステージに立つコンサートや、企業ブースのヘルスチェックなどに区民が集い、広場の賑わいが伝わってきた。イベント(福ハッピーフェスタ)は、大阪市西淀川区の「魅力発信サポーター」や福駅周辺活性化協議会、福駅周辺を盛り上げ隊、あおぞら財団、地域住民協力によって、病院のスタッフだけでなく「みんなの力」で作られている。   ■生活の場に医療機関が積極的に出ていく。協働企業がサポート   千船病院が地域に出るサポートをしているのが、協働する企業、からだポータル株式会社や大成建設株式会社の存在でもある。   先述の健康イベントでの測定結果や健診結果から、生活者の健康データの管理、医療機関への提供などを行っているからだポータル社。同社の代表取締役で、千船病院の前任の事務部長だった井内伸一さんの「医療のリソースを使って地域の方々の健康を守りたい」という思いが、千船病院とのコラボへ引き継がれた。   一方、大成建設社は、横浜市立大学、他社と協働開発したウォーキング・WEBアプリの展開で協力している。これは、ユーザーが街を歩きながらスマートフォンのカメラで撮影し、幸福や健康に関する主観的な感情について、そう感じた対象物の写真を投稿し、地図に「ハッピー」や「ヘルシー」のピンを刺していくもので、横浜市内や西淀川区ではウォーキングイベントとして実施されている。   「(イネーブリングシティウォーク・WEBアプリで)「西淀川イネーブリングWalk!」というイベントを、2022年は区内で5回開催。まだ検証段階ではあるが、データの収集やプロットで『ハッピー/アンハッピーな要素が多い場所』を可視化し、アンハッピーな場所をどうやってハッピーにできるか?を探るワークショップ開催などを検討している。(自分の専門領域である)リハビリの観点からも、地域の方々がこのアプリを使い、街歩きで健康増進に繋げることができたら」と村田さん。   デジタルを活用した区民と健康との接点づくりが新鮮に映り「病気を治す」「患者を治療する」といった自分が病院へ持っている固定的な役割観が拡張し、塗り替えられていくようだった。   ■ウェルビーイングをまちづくりへ。「イネーブリングシティー」とは何か   「幸福と健康が両立するまちづくり」を目指すにあたって、チームは「イネ―ブリングシティー」という概念を用いている。 これは、聞き慣れないという読者の方も多いだろう。筆者もそんな一人だったため、千船病院と共同研究契約を結ぶ横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター(以下YCU-CDC)の考え方を助教の西井正造さんに解説してもらった。   西井さんはヘルス×ハピネス指標の4象限(下図)や、4象限にOECD各国をプロットし、各国や日本がどの位置づけにあるかを示した図を用いて「イネ―ブリング」の概念を紐解いてくれた。 これによると、ウェルビーイングは「ハッピー」と「ヘルシー」因子の掛け合わせで決まり、それを最大化することが目標となる。     「『ハッピー』かつ『ヘルシー』な状態を可能にする因子(イネ―ブリングファクター)を街の色々なところに埋め込んで増やしていくことを、これからの医学研究でも目指すべきではないか。これがYCU-CDCの「イネ―ブリングシティー」の考え方です。病院でも『ヘルス』だけでなく『ハッピー』にも貢献できるような取り組みをしていきたい。」と、村田さんから補足があった。   YCU-CDCでは、アーティストやクリエイターなどのアートの担い手との協働・共創で、街の階段などの公共空間のデザインやデジタルを活用したデザイン実装でまちに「イネ―ブリングファクター」を増やす試みにより、様々な自治体で実証実験を行ってきた。   パンデミック流行以降、希薄化したと思える、身近な存在のはずの隣近所や同僚とのつながり。そんな中で自分自身の『ハッピー』×『ヘルス』の因子は、所属する会社は、そして住んでいる自治体の今の状態はどうなっているだろうかと考え直すきっかけともなった。   ■幸せになったら、勝手に健康になっていた。「ストリートメディカル」の考え方   デザインの力でイネ―ブリングシティー化に取り組むYCU-CDCの理論で、「ウェルビーイング」がより具体的になった。病院主役に一人一人の「ハッピー」で「ヘルシー」な状態を最大化する試みで、「イネ―ブリングな状態」を目指すにあたり、医療×デザインの力ができることとは。その可能性を探る中で、シンボリックに映った事例について紐解いていきたい。   千船病院は、先述した横浜市立大学との共同研究契約で「Street Medical®(ストリートメディカル)」の実証実験を進めている。 これはYCU-CDCの武部貴則センター長が提唱する概念で「人として本来的に在りたい状態を追求するため、今までの概念に捕らわれない新たな医療」と定義され、文学やデザイン、アートやゲームまでもが「新たな医療」に含まれるという。 ゲームを例に「『ゲームを楽しんでいたら、知らず知らず歩き回っていて、結果的に健康につながることをしていた」というのも、ストリートメディカルの視点の一つ」と解説されれば、読者にもわかりやすい理論だろう。   病院が治療を受ける場で在るだけでなく、患者が「ハッピー」を感じる場所にもなるように、千船病院では院内にデザインやアートの展示も増やす試みを行っているそうだ。 イネ―ブリングシティーもまた、様々な健康づくり・まちづくりのプレイヤーが集結した「みんなの力」によって実現するもの。共創によるデザインがまちを彩り、活気を与えていく様子がイメージ出来、自分も企業人の一人として何らか貢献できる余地があるのでは、と意欲が湧いた。今後は近隣の専門学校や大学など、若い視点や力も取り入れながらの企画も進行中というので楽しみだ。   にじくじらチームのモデルが他の自治体にも広がれば、日本中にイネ―ブリングシティーが広がっていくのではないだろうか。   にじくじらチームからの続ける・つながるアクション提案: 区を実践の場に「産学官民連携」のまちづくりを進めよう。   取材の最後に、中島区長はチームの1ゴール「健康と幸福が両立するまちづくり」の一歩先へ踏み込んで「区の究極のゴール」についてふれられた。   「『ウェルビーイング』なまちづくりを通じて、区の人口を維持し、増やしていく良い循環が出来たらとも考えている。(区長に就任する前に)民間の出身として約30年、まちづくりと向き合ってきた経緯で、活気ある街、人口の増えるまちづくりに関心を持ち続けてきた。」   コロナの流行を契機に千船病院に相談し、対話をしたことで「病院経営の観点からもウェルビーイングを通じて人口の増える街にしたい」という病院の思いが、区と同じ方向を向いていると確認できたという。   「区では現在『ウェルビーイング西淀川』というチームを作って官民連携で動いているが、その中心的な役割を担っているのが千船病院。これからは民間の方にも積極的に入ってもらい、官民連携のみならず『民民連携』で、西淀川区の魅力発信や人口増加につなげる計画をしている。」   千船病院 中山事務局長も「病院としても『存在意義が問われている』今だからこそ地域から認められることがますます重要となっている中で、地域との『共創』の機運が高まりつつある。今回の『TEAM EXPO 2025』プログラム/共創チャレンジへの登録をきっかけに、プロジェクトをもっと盛り上げていけたら」と強調し、締めくくった。   2025年という先を見据えた「サス活」の可能性については、村田さんから下記のような意見があった。 「病院単独ではどうしても「もっと歩きましょう」「食事を変えましょう」といった『健康』に導くだけの具体的アドバイスとなってしまうため、外部の様々な方からのアイデアや知識を求めている。企業からの『こうしたアクションを促せる』といった提案で、次のチャレンジをする姿勢をとっていきたい。」   にじくじらチームの共創チャレンジは「病院から真っ先に手を上げ、積極的にまちづくりを」という千船病院の病院らしからぬユニークネスが共感を集め、様々な力を持ったアクション主体を引き寄せている。病院を中心に「みんな」で手を繋ぎ、西淀川区にパワーを与えていると感じられた。   昨今の医療現場に関するニュースからも、医療従事者の「本業」の状態は常にひっ迫しており、病院だけで進めるプロジェクトが容易ではないということは、読者にも想像できるだろう。とりわけ「生活の場に医療機関が積極的に出ていくことで、市民の健康を未然に守ること(未病の防止)にもつながる」という部分に共感した。   医療機関起点の健康づくり、まちづくりが「ハピネスドリブン」であることは確かに重要と納得できる。だからこそ、病院単独ではなく、キーワードは「みんな」である。   次に自分が出来ることとしては、実際に西淀川区のまちを訪れ、イベント現場を見に行き、まちづくりの担い手「みんな」の輪に参画してみたいと思う。   ちなみに、広報誌『虹くじら』によると、大阪で最も分娩数が多く、大阪府で最多数の「未受診妊婦」を受け入れているのも千船病院だそうだ。ハピネスドリブンな医療機関から、ハッピーでヘルシーな子どもが生まれる。西淀川区の未来像にワクワクした。     取材にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。   にじくじらチームの共創チャレンジ「イネーブリングシティー西淀川区プロジェクト」はこちら https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/785  

    続きをみる

  • 地域を活性化し、共存・共栄するホテルが出来るSDGs。

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は、株式会社スーパーホテル 経営品質本部/デジタルマーケティング部 芦村尚悟さん、建設企画部 泉尾賢司さんのホテル運営の姿勢を「TEAM EXPO 2025」プログラムの共創チャレンジ事例から紐解き、続ける・つながる「サス活」を探ります。 ライター 腰塚安菜     チームの1ゴール: 地域を活性化し、共存・共栄するホテルが出来るSDGs。   今回の取材先は読者の皆さんにも馴染みのある株式会社スーパーホテル。ホテル業界でもサステナブルな取組みの導入が進んでいる。そこで今回は「TEAM EXPO 2025」プログラム/共創チャレンジのエントリー事例に関わった経営品質本部/デジタルマーケティング部  芦村尚悟さん、建設企画部 泉尾賢司さんに取材に応じていただいた。 ■「LOHAS」からSDGsへ。会長 山本氏の姿勢をそのままにブランド進化    国内に170店舗を展開するスーパーホテルの予約サイトを開くと「スーパーホテルは持続可能な開発目標(SDGs)を支援しています」という宣言が現れる。 自分の近隣を歩いたり、調べたりしているうちに、地域ごとに様々な業態があることが解ってきたが「Natural, Organic, Smart」というコンセプトに、私は取材前から関心を寄せていた。 業界で先進的な環境保全の取組み企業を選ぶ環境大臣認定「エコ・ファースト企業」として、SDGs支援を掲げる前から「スーパーホテルLohas」の名称で「健康」「環境」を他のホテルチェーンと差別化してきたスーパーホテル。 「LOHAS」は当時の環境キーワードの流行語であったため、新しいコンセプトでリスタートをきるに踏み切ったという。 その後のホテルブランディングに大きく貢献した一人が、本取材に応じて頂いた芦村さんだ。 「Natural、Organic、Smart」は、誰にでもわかりやすく健康・環境への姿勢が示せる端的な英語の並びではあるが、企画側の高い意識のみで考案されたコンセプトではなく、宿泊客の声を活かし、他のホテルチェーンにない自社の強みを熟慮した上、この三つの柱が生まれたことがわかった。   芦村さんは「まず、これまでの『LOHAS』がホテルサービスのどこに紐づいているかを確かめるため、グループインタビューやお客様の声を反映させ、さらに社内30代以下アンケートを行い『Natural』『Organic』が選ばれた。 地球と人にやさしいホテルという想いから「Sustainable」も候補にあったが、環境に配慮したシンプルなサービスを割得で賢く選択していただくという観点で『Smart』になった」と決定までの経緯を説明してくれた。   そんなスーパーホテルで展開される環境配慮型ホテルづくりの取り組みは、全店共通施策・あるいは各地域店舗ごと、実に多岐にわたる。   宿泊に伴い発生するCO2排出量の100%をお客様に代わりカーボンオフセットする宿泊プラン「エコ泊」は2010年から、宿泊客参加型で、客室アメニティの歯ブラシ返納に協力するとホテルからプレゼントのサービスをする「エコひいき」は2008年から続けられてきた全店での環境へのアプローチだ。   地域ごとの店舗で展開される「SDGsプラン」もシンボリックな施策が目立つ。 御殿場Ⅱ号館店、Premier銀座店などでは宿泊客が不要となった衣類を提供することでホテルから寄付に協力できる「古着 deワクチン」参加型(日本リユースシステム株式会社の協力)など、宿泊料金の収益の一部をコラボ先に寄付するチャリティ付プランは、日常の延長線上で出来るハードルの高くない施策で、筆者も参加してみたい外部とのコラボだ。 こうした施策展開の裏側を芦村さんに聞くと、店舗の支配人からのボトムアップで提案・実現している「SDGsプラン」もあるそうだ。 スーパーホテルが掲げてきた「自律型感動人間」の精神がここにも反映されていると感じられた。   ■スーパーホテルの地域密着型SDGs。TEAM EXPO 2025に懸ける2つの取り組み   共創チャレンジのエントリー事例の一つで「地域のコミュニティと共に」を押し出していることについて芦村さんに詳しく伺った。 「(うちは)全国にあるチェーンホテルだが、地域ごとの店が生かされていくために、地域の企業や観光とのつながりを重視。『地域の中で一番選んでいただくホテルになろう』。地域と共存していくことが、会社としてのゴール」。   モデルケースとなっているスーパーホテルPremier武蔵小杉駅前店の協働先「はぐるまの会」(※1)は、コンポストの取り組みによって出る堆肥を必要としている企業や団体がないか川崎市の担当者に相談し、紹介を受けたという。 その後、とんとん拍子に話は進み、ホテルの朝食残渣(後段に詳細)を活用した「スーパーホテルの堆肥」を川崎市多摩区の「はぐるまファーム」に提供し、無農薬野菜作りへ協力する取り組みに繋がっていった。 (※1)川崎市の社会福祉法人。障がいを持つ方々が集団生活で自立していくことを目指し、地域交流活動として福祉施設の農業活動を実施。地元の協力者が支える「都市型福祉農園」はぐるま工房(宮前区)は野菜収穫祭などの農園体験イベントなどを行っている。 一方で、スーパーホテルPremier帯広駅前店をエントリーした背景やいきさつは、担当した泉尾さんが詳しく話してくれた。 この店舗では客室に十勝平野の自然に育まれる地域材の「なら材」が使用されていることも特徴だが、協働パートナーの株式会社ワイス・ワイスとはどのように出会ったのかについても訊いた。      「2008年から『健康』『環境』サービスでホテルができることを経営層と考える『Lohas会議』(現『SDGs委員会』)が行われ、その中で国産木材の問題等の情報提供を得る機会があった。会議の中で、顔の見える家具づくりに取り組む東京・渋谷の株式会社ワイス・ワイスを紹介してもらった」と当時を振り返る泉尾さん。 2022年に地方創生事業で協定を結んだ宮崎県の諸塚村(もろつかそん)との連携も、この会議からで実現した一つの事例だ。「諸塚村」とFSC認証マークがついた木箱がホテルのラウンジや朝食会場などにディスプレーされ、スタイリッシュな空間を演出している。    こうした地域材の活用は、帯広駅前店だけではなく石川県の県木「能登ヒバ」を使用するPremier金沢駅東口店、首都圏では大宮、下関や宮崎などの店舗でも展開されているそうだ。 木材が客室空間などにさりげなくインテリアになる役割だけでなく「森・自然・文化に還元する」ホテルの地域貢献姿勢が裏付られていることで、宿泊客とスタッフ間のコミュニケーションにも寄与している。   泉尾さんは「(自分は)本部としてこの会議に関わることで考えてきたが、会議に参加しない地域の現場の支配人とも密にコミュニケーションをとりながら進めていった」とも補足。 現場のスタッフを巻き込むことに加え、ホテル側の想いに応えた協働企業や地元の家具職人が一丸となりスーパーホテルが目指す「木材の地産地消」を実現していったことがわかる。   ■「健康」「環境」に配慮したホテル化の一端を店舗で体験する オンライン取材の前に、私は今回の共創チャレンジの一端を担うPremier武蔵小杉駅前店で「スーパーホテルの健康朝食」を体験してきた。 ホテルコンセプトの「Organic」を象徴する有機JASの認定野菜が盛りだくさんのサラダブッフェは、朝の目覚めたばかりの体に隅々まで栄養をいきわたらせてくれるようで、舌も心も満足した。   この店舗では前述した通り、朝食会場で出る生ごみ(残渣)を活用し、ファームに堆肥を提供することで無農薬野菜作りにも協力している。 現地で支配人に見せてもらうと、朝食会場の裏に「バイオ生ごみ処理機」が設けられていた。入れられた残渣が24時間経つとオーガニックな堆肥化が出来ているそうだ。   アンダーコロナのホテルの朝食ブッフェは、他のどんな施設にも通じるが、マスクの付け外しやビニール手袋を用いての実施など(※取材当時)、提供側も宿泊者も緊張する瞬間。 そんな緊張感をほぐしてくれるような朝食で、ホテルが作る堆肥が、ホテルの地元で活かされるという、宿泊客にも伝わりやすい循環型の取り組み。そんな情報を得てから臨んだことで、この日の朝食ブッフェはさらにフレッシュな体験となった。     これに終わらず、後日のオンライン取材では「健康」「環境」の先の食のサステナビリティを目指す取り組みが進行中であることも知った。 芦村さんの話から「(ホテルとして)フードロス削減にも、何かアプローチは出来ないか」「ホテルで地元農家の規格外野菜を扱い、宿泊客に持ち帰ってもらうことはできないか」。など、アイデアの種が次々と飛びだす。 「一部の店舗で食品残渣を活用してできた食器『Edish(エディッシュ)』(※2)の導入を決めたのは、食器洗浄にかかる環境影響も考えて」。筆者が盲点だった、ホテルならではの環境課題発見だと感じられた。 (※2)丸紅株式会社のビジネスプランコンテストから生まれた食品廃材をアップサイクルした「循環型食器」。2020年から各地の施設、イベントなどで導入の実証実験が行われている。   また、2022年6月に発表し、ニュース話題となった事例では、フードシェアリングアプリ「TABETE(※3)」の導入により、朝食ブッフェでどうしても廃棄されてしまう「まだ美味しい残り物」を安全で美味しいうちにお弁当の形でユーザーに届けるというサービスがある。 筆者が体験した朝食ブッフェの料理が最後まで無駄なく美味しく、別の形でも活躍していることを知り、ますます嬉しくなった。 (※3)廃棄の危機に面している食事をユーザーとマッチングする「フードシェアリング」サービスで食品ロス削減にアプローチするアプリ。     SUPER HOTELからの続ける・つながるアクション提案: SDGsという大きな目標を、まずは地域から。   「ホテルとは、地域に活かされている創地産業。二十年、三十年とその場所で過ごしていくものなので、地域と一緒に成長していく必要がある。地域と共存・共栄することが、会社として目指すゴールだと思っている」と話した芦村さん。 「(企画側の)自己満足になってしまわずに、いかに周りに伝えていけるか」を取り組み創造の基本とし、なるべく顧客参加型で、少しでもお客様に理解していただくことを重視している。 「(SDGsの支援に向けた取り組みも)少しずつ取り組み意義が理解されて、他社との差別化で選んでいただいているという実感がある」と前向きに伝えてくれた。   「SNSを介して顧客の口コミやレスポンスが可視化してきたことで、立地や価格だけでない他の選択肢でホテルを指名する人も増えている」と芦村さん。取材の最後に、最近、宿泊客に好評だったという魅力的な取り組みを紹介してもらった。それが、コロナ下に生まれたサービス「ウェルカムバー」だ。   これは、集って飲食する機会が減った中、ラウンジを設けて地酒やワイン、ウイスキーなどを宿泊客に無料サービスするというもので、ビジネス客を中心に、お酒やコーヒーを飲みながら仕事をしたり、会話を楽しんだりしたいという需要に応えた。単発のイベントではなく、全国7割程度の店舗で導入され、ほぼ常設のサービスとなっているとも聞いて驚いた。   「諸塚村産のモザイク林で育ったなら材をスティック状にし、ウイスキーに漬けこむことで、ひと味違う風味が生まれるんです。それをお客様に召し上がっていただくと『これ、何?』と会話が生まれ、諸塚村のアピールにも繋がって」と楽しそうにエピソードを語った泉尾さん。 こうした話題が宿泊客にユニークに映り、各地のウェルカムバーを盛り上げているに違いない。   スーパーホテルでは店舗ごとの取り組みを表彰する「ベストプラクティス制度」も設けられている。ここで認められたアイデアは、各店から全国展開も目指せるそうだ。「小さく生んで、大きく育てる」教育精神で、現場で生まれた個人のアイデアの種が広がり、次代の店舗での取り組みが創られていくイメージが出来た。 同社では今年度の採用活動が始まったばかりだが、2023年度の新入社員たちからもイノベーティブな「ホテルビジネス×SDGs」アイデアの種が育っていくだろう。自分のアイデアがまず街のホテルから実現し、全国の店舗で展開されることに野心を持つ若者が応募してきたら素敵だ。   ホテル業界にまつわる気がかりな話題に目を向けると、新聞社・通信社が行った調査ではウィズ・コロナの2年間で、国内のホテルや旅行会社の5000が閉業に追い込まれた可能性があるという。 しかしそんな逆風に屈せず、サービスを介してホテルスタッフとお客様の間で生まれる感動は、地域で次々と生まれていくだろう。 ホテルビジネスのポジティブな未来に胸を膨らませた取材だった。   ご参加いただいた皆様、ありがとうございました。    SUPER HOTEL(店舗)の共創チャレンジは、以下2つのリンクから。 https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/340 https://team.expo2025.or.jp/ja/challenge/321   スーパーホテルのSDGsはこちら

    続きをみる

  • 「長期的な〈健幸〉を視野に入れた消費をめざす」

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は、インド発祥の伝承医学「アーユルヴェーダ」を日本式の「健幸」に変換し、スクールやイベントでの発信、企業とのコラボレーションで社会・世界の問題解決をも目指すMOTHERの皆さん。代表の岡清華さんとMOTHERを支えるメンバーの皆さんの「TEAM EXPO 2025」プログラムやSDGs目標への意気込み、続ける・つながる「サス活」を探ります。 ライター 腰塚安菜     チームの1ゴール:   「長期的な〈健幸〉を視野に入れた消費をめざす」   今回は、ライフスタイル提案型の会員制オンラインスクール運営を行うアーユルヴェーダコミュニティMOTHERから、代表の岡 清華さん(MOTHER創業者/管理栄養士/アーユルヴェーダ・ラ―ジャヨガ講師/Mother株式会社 代表取締役)とバックオフィスの大川萌子さん、川添裕加さんに出席いただいた。 改めて「アーユルヴェーダ」とは、インド発祥の世界最古の伝承医学を基とした、健康・ライフスタイル全体に関する〈教え〉で、国内でも徐々に広まりつつあるが、まだまだ限られた認識にとどまっている。 取材者の私が飛び込み、単発の受講や一夜漬けの独学で身に付くものではなく、毎日の実践があってこそ体得しうるものだ。MOTHERの共創チャレンジには、そんなアーユルヴェーダの智慧を「現代日本に伝承するプロジェクト」と記載されていたが、話を聞いてみると、SDGs目標に通ずるチームの1ゴールを持っていた。 岡さんを筆頭に大川さんや川添さんも「女性ならでは」とも言える柔らかな感性で、SDGsや幸せな消費のあり方について、自身の体験に基づく個々の見解をしっかりと持っていた。   ■29歳のMOTHER創業者が考える、持続可能な生き方と取り組み   代表の岡さんは、29歳になりたてにして、アーユルヴェーダでコミュニティ会員250名以上、スクール卒業生250名以上を指導する、オンライン/オフラインに広がるコミュニティのリーダー(指導者)だ。 万博開催地に身近な関西に22年間暮らし、管理栄養士の国家資格を取得する大学で食物栄養学の学びを経た後、本格的にハワイのカウアイ島でアーユルヴェーダを深めるなど、様々な経験をしてきた。 「TEAM EXPO 2025」プログラムへの参加のきっかけには、最近刊行したばかりの書籍に関わった担当者から「MOTHERが伝えてきたことが『TEAM EXPO 2025』の共創チャレンジ募集概要に合っている」との薦めがあった。「アーユルヴェーダは、生まれてから死ぬまでの人間の営み、朝起きてから寝るまでの色々な営み全てに関わること。社会や世界のいろんな課題に対して、解決策になるのではと考える。」と岡さんは話す。 MOTHERの立ち上げから伝えてきたことを「心と体の健やかさと持続可能性」とも言い換えて提案し、今回の取材意図を汲み取ってくれた。私自身、アーユルヴェーダに関しては初学者の立場のため、さらに紐解いてもらうと、基礎的な考え方に「自然と共存する人間の暮らし」があるという。   そのような暮らしも含めて「心と体の健やかさ」の実現とは、簡単に言うことはできるが、難しい課題である。 毎日のスクール運営や発信でアーユルヴェーダを伝え、参加者個人をサポートしてきたMOTHERの目指すものをSDGsに則すと「目標3:すべての人に健康と福祉を」と直感するが、岡さんにはさらに意欲的に取り組む分野があった。  現在、岡さんは、MOTHERを通じ、日本のものづくりを重視した商品開発やプロデュース、EC・催事での販売にも力を入れる。 具体的には、アーユルヴェーダが教える生活で大切な消化管の浄化や感染症対策に役立つ「舌磨き」や「鼻うがい」などの身体をケアするグッズ、滋養につながる食品など、1つ1つを外部とのコラボによってプロデュースするという地道な努力を続けている。 「インドから商品を輸入して提供することも出来るが、あえてそうせず、地方の町工場と一緒に取り組むなどして、日本の安心・安全な物作りを重視している」と岡さん。   この点が特にユニークだと感じ「消費(SDGsの目標12)を切り口に、意気込みや提案を」と投げかけてみたところ、MOTHERができることという視点で、SDGsや環境問題との付き合い方を探るようにこう話してくれた。「SDGsや環境問題は一生付き合っていくものでもあるので、どう長く付き合っていくかを重視したい。プラスチックフリーやゼロウェイストがいくらよい行動でも、例えば『10日間だけの特急ダイエット』のように実践するだけでは長続きするものではない。 (そのような取り組み方では)『今日も環境によいことが出来なかった』という罪悪感で苦しむ人もでてくるのではないか。『つくる責任・つかう責任』に対して私たちができることは、人間の価値観や心のあり方の根本を変えていくこと。」   ■短期的な幸せのためでなく、長期的な幸せのための消費。MOTHERが目指す〈健幸〉とは   MOTHERが提案する「日本式アーユルヴェーダ」の発信の中では「健幸」というキーワードが度々登場する。読者の皆さんは「健康」との違いについて、イメージできるだろうか。「私たちの人生を幸せにすることも、環境をよくしていくことも『持続可能』でなければならないと思っている。体が健康なことだけが、幸せにつながるのではない。」こうした考え方をMOTHERでは健幸(けんこう)と捉えている。 岡さんは講師として、日々の買い物や食べ物を例えに教えることが多いそうだ。 「短期的な快楽や欲望のために何かを買えば、目先の幸せで満たされるけれども、長期的には自分を苦しめることになる結果や、要らないものを買ってしまうことがある。」という話に、私たちが日々の選択で簡単に「サステナブルでない」方向性へ陥ってしまう日常生活上の行動ルーティーンについても省察する機会となった。 無意識に行っているかもしれないが、例えばコンビニに入って、自分のために食べるものを選択し、購入し、包装材や付属品を受け取るか否かまでの一連の流れも含まれるだろう。   健幸×消費でMOTHERが提案できる具体的な取組みについては、大川さん、川添さんにも話を聞いた。 大川さんは「先日、MOTHERが東京の百貨店へ出店した際、テーマに掲げた『自分に合うものを自分軸で選択すること』は、MOTHERがすすめる消費の基本的な考え方」と補足。 MOTHERはオンライン(EC販売)で商品を購入することも提案しているが、3月に阪急うめだ本店で、4月に伊勢丹新宿店で行ったプロモーションの一環では「パーソナルショッピング」という形で、買い物客とリアルで会話をしながら「自分に合うもの」を消費につなげるための相談にのった。 「『自分にはこれが合う』『この季節だからこれを選択する』と理解した上で買うことは、アーユルヴェーダをまだ知らない段階で、不必要な買い物をしてしまわないことにもつながる。こうしたMOTHERが提案しうる消費の在り方を、万博参加による共創でさらに大きくしていきたい」と、大川さんは消費者の買い方にも踏み込んで提案した。   川添さんは「(自分の考える)共創とは、参加型であること。SNSが発達して『個の時代』になっているとも言われているが、アーユルヴェーダは個を見ていくものだから、個を認め合い、個々が集まって、何か一つのものをつくっていったり、参加型になったりしていくことでみんなが『健幸』を実現できるのではないかと考える」と、若い視点から共創というテーマやアーユルヴェーダと真摯に向き合っている。そして、その言葉はしっかりと自分の経験に基づいて捻出されたものであることが伝わってきた。   ■共創が、次なる共創へ。コラボ先を限定せず、”これからの消費”にチャレンジ   共創チャレンジへの参加のきっかけは、代表の岡さんの「仲間を増やしたい」という動機が始まりだったそうだが、MOTHERが外部企業、その中の個人と積極的にコラボレートしている点にも興味を持った。 なかでも、企業コラボ事例で私が特に興味をひかれたのは、アサヒグループからサステナブル事業に特化して立ち上がったアサヒユウアス社とファッションブランド「ECOALF(エコアルフ)」との、2021年12月に行われたSDGsトークセッションだった。 もともとアサヒグループとエコアルフ・ジャパンの担当者同士が衣と食の分野の「サステナブルなライフスタイル推進」で想いを同じくして繋がり、共創によってうまれたアップサイクルプロジェクトや商品が先行していた。 「健康」「効率」「創造」に向き合うねらいで開催されたこのイベントでのトークを振り返り、岡さんは「アサヒグループさんの商品開発のやり方などに興味を持って参加したが、イベントのご縁で、MOTHERの次のものづくりの協働先を紹介いただくことも出来た。企業が(SDGsに対して)取り組みを展開しているが、組織の中で取り組んでいる人という『個』にフォーカスすると、私自身が様々な方とコラボしてお話が出来ると思った」と話す。 コラボを始める際、組織名ではなく、組織の中でSDGsに取り組む人を見て共創の輪に入るという岡さんの姿勢は、アーユルヴェーダで一人一人の個性や問題と向き合ってきた姿勢そのものに重なる。個人の間で一つうまれた共創の取り組みが、また次の共創へと橋渡ししているような事例だと感じた。   MOTHERからの続ける・つながるアクション提案: 健幸な女性を主役に、消費で共創を生み出す MOTHERでは、代表の岡さん自身のつながりの縁によって生まれ、実った企画は多岐にわたるが、その全てに一つ通ずることがある。それは、岡さんを筆頭に「女性性」を主役とし、発信や取り組みを次々と企画・実現していることだ。   MOTHERコミュニティ会員200~300人のうち、半数が子供を持つ女性であるとも伺った。「MOTHERというチーム名自体が、女性性を象徴する。発足時のネーミングの背景に、家庭の中で、まず、女性がハッピーであることを重視しているから」と岡さん。 女性を主役にSDGsを推進し、健幸な女性がどんどん増えていく。SDGsが介在するコミュニケーションやビジネスに風穴を開ける予感さえさせた。 MOTHERを立ち上げてからの岡さんご自身のサス活は、その柔和でありながら強さを持つ語り口から「学び(教え)」と「発信」の2本柱であると捉えられた。 前者には、日々の瞑想や呼吸法、ヨガなどで心を整え、体を動かすといった個人が自力で生活を変えていくためのサポートや継続的な指導も含まれる。後者の発信については「岡さんのインスタグラムへ」と記載するのが容易いかもしれないが、イベント登壇時のトークショーやオンラインレッスン、ライブ対談などでの生命力溢れる岡さんの姿や表現を通じ、毎日のように、私たちは何か見て学びとることが出来るだろう。   「健やかで幸多い日常の確立」とは、誰にとっても険しい道のりで、私自身、身をもって自分ごと化している。一方で「買い物で未来を変える」EARTH MALLのメンバーの一員でもある私は、MOTHERの提案にヒントを得、「長期的な幸せのための消費かどうか?」(短期的な幸せのための消費ではないのか?)と自問しながら、日々の衣食住の買い物と向き合う姿勢をとっていきたい、と背筋が伸びる思いだった。   取材にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 「MOTHER」の共創チャレンジはこちら  

    続きをみる

  • 「緑をふやす、未来へつなぐ」

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。今回は、従来廃棄される衣類などのポリエステル繊維を「培地」として再利用することで緑を増やし、いのちをはぐくむ活動へと発想を変えて取り組む「PLUS∞GREEN PROJECT」の皆さん。メンバーの皆さんそれぞれの目標と、続ける・つながる「サス活」に迫りました。 ライター 腰塚安菜     チームの1ゴール: 「緑をふやす、未来へつなぐ」   今回、取材した共創チャレンジは「PLUS∞GREEN PROJECT」。2021年に商号変更した大阪府大阪市の繊維専門商社、スタイレム瀧定大阪株式会社と、徳島で都市緑化やリサイクル繊維培地の開発を専門とするアースコンシャス株式会社、近畿大学 社会連携センターの教授らの協力によってうまれたチームだ。   まずは、スタイレム瀧定大阪株式会社の坂本和也さんに話をきいた。1864年の「瀧定」の創業から150年超という同社は現在、繊維専門商社として4つの事業軸を持つ。テキスタイル事業では、廃棄時のCO2排出量を40%削減できるポリエステル繊維や、ヴィーガンダウンや寝具に利用する「カポックファイバー」などの繊維を「ECOARCH®」と総称し、展開。 一方、インド企業とのパートナーシップで、綿花栽培からGOTS(※)認証発行までを自社で管理する「インドオーガニックコットンプロジェクト」のオーガニックコットンづくりなど、2021年2月に自社のサステナビリティに対しての方針を定めてから続々と取り組みを展開してきた。そんななか、今回のTEAM EXPOに「PLUS∞GREEN PROJECT」を登録したのは「みんなで創っていく」コンセプトに共鳴したことからだという。 ※オーガニック・テキスタイルを製造加工するための国際基準。     ■「ポリエステル繊維リサイクル培地=TUTTI(トゥッティ)」を中心に共創の輪を広げる 読者の皆さんは「繊維から生まれた土」と聞いて、どんなものか想像できるだろうか。   ここから、主にポリエステル繊維を原材料とする培地を「TUTTI(トゥッティ)」と呼んでいく。坂本さんは培地について消費者に伝える際はシンプルに「衣類などをリサイクルした土」と伝えていると話した。「ポリエステル以外の衣類(天然繊維やセルロース等)もリサイクルして培地にできるか」と尋ねると、基本的には回収した衣類や資材系の端材などを利用して製造を行っているので問題はないとのこと。 この培地は扱いやすく、虫もつきにくく、植物が育ちやすい環境であるといった利便性もあり、ポリエステル繊維を85%以上になるようにブレンドし、その他の原材料はごく少ないそうだ。   2021年2月のプロジェクト始動以降「実際にどこで培地を見ることが出来るか」という問い合わせも多かったという。 そこで「企業関係者などへの公開できる場を」と、試験場「STYLEM AGRI LABO(スタイレムアグリラボ)」(2021年8月開場)の実装に取り組んできた。近畿大学の教授らのアドバイスを受けながら、本格的なグランドオープンに向けて、現在進行形で着実に準備が進んでいるそうだ。 企業関係者に培地の魅力を伝えるためには、自分たちで栽培して本質を理解する事が大切だと考える坂本さん。 「TUTTI」と「STYLEM AGRI LABO」の説明を通じて、消費者に衣類などをリサイクルする重要性を伝える工夫をしてきたことや、メンバー自身が実際に体験し、チーム内でも正しい理解を共有する姿勢が伝わってきた。     ■「自然はお金で買えない」。だからこそ、お客様に何かメッセージを伝えたい   「PLUS∞GREEN PROJECT」にはアースコンシャス株式会社という力強いパートナー企業の存在がある。代表取締役の青山恭久さんが「繊維と緑」の深い関係や、プロジェクトにかける思いの丈を話してくれた。   私たちが日々生かされている衣食住の中の「衣」で青山さんが繊維リサイクルに着眼した契機は、平成12年まで遡ることができる。 京都議定書が採択された後「循環型社会形成推進基本法」(循環基本法)の制定でリサイクルに関する基本的な方針が定められ、東京都を皮切りに、建物の屋上や壁面を緑化する条例が、都道府県や政令都市で次々と義務化されていった。今ではよく耳にするようになった、循環型社会推進への道筋が出来たが、青山さんは、未だ到達していない「繊維リサイクルに関する法律をつくりあげること」を個人的なゴールと考えている。 そのゴールに向かうため、「いのちのない服」を捨てるのではなく、緑や花をはぐくむ土台である「培地がうみだすいのち」を伝える活動にフォーカス。当時から、広く多くの方々に伝えたいと力を入れてきた。   26年前はリサイクルの取り組みへ周囲の反応も鈍く、苦労したというが、近年はサステナビリティへの追い風を感じ、このタイミングを逃さず、他社と競合ではなく協業することを前提に、これまでの技術ノウハウをオープンにしてきた。今回のスタイレム瀧定大阪社とのパートナーシップも大切に育みながら、繊維のリサイクルを通じて循環型社会推進のリーダーシップをとろうという同社の姿勢にふれた。     チーム「PLUS∞GREEN PROJECT」からの続ける・つながるアクション提案:   「服だけでなく、廃棄物全体を減らすこともゴール」というスタイレム瀧定大阪社(坂本和也さん、阿多憲明さん、小松美加さん)からは「TUTTIをまずは使ってみませんか」というサス活提案。いくら商材がよくても、体験、共感がなければ伝わらない。近年の「モノからコト」への消費動向も意識し、培地を体験し、採用を考えてほしいという。   「未来へつなぐ」活動の具体的事例では、例えば、渋谷の宮下パークなど自然がない都会の中心で起こす1アクションも提案。生活者の目に緑を入れながら催しを行うことで、より共感が大きくなるのではと考える。 生まれ育ちから勤務まで首都圏近郊育ちの筆者は、どっぷりと都会生活者。中でも、親子のライフスタイルの中で伝えるというアクションに大きく共感した。地域の緑化と同時にこのプロジェクトを進めることは、大阪・関西万博で掲げられる「いのち輝く未来社会のデザイン」にもつながるだろうと想像できた。   スタイレム瀧定大阪社の阿多さんは、この産学連携プロジェクトがハブとなり、つながりを横に広がるきっかけになればと考えているという。 また、広報の小松さんは、TEAM EXPOへの参加を自社発信するだけでなく、プロジェクトに賛同する取引先からも積極的に広報されることも、認知が広がる要素と捉えている。   アースコンシャス社のサス活は「いのちを育み、捨てるものに、いのちを与える」という誰にも分かりやすい活動コンセプト。 根底にあるのは「社会の健康に寄与する」マインドだそうだ。青山さんは「(企業が責任を持って)子どもたちに伝える」というもう一つのサス活にも意気込みを見せた。 青山さんのサス活のきっかけとなっているのは十数年前、京都企業との企画で実現した「ゴーヤ栽培教室」の取り組みで、夏休みに合わせて小学生や保護者と一緒にリサイクル繊維培地を使い、ゴーヤの種まきをしたというエピソード。 「企業の大小に恥じらいや遠慮をせず、自らが切り開くシーズ(ビジネスの種)とニーズに共感を頂ける方々と出会うことで、垣根を越えて『未来をつなぐ活動』を続けたい」という想いは、つながる・続けるサス活の象徴と捉えられた。   一方、「未来へつなぐ」活動で思いを同じくするスタイレム瀧定大阪社の坂本さんからは、子どもや学生たちへの「服育」活動の報告もあった。 最近の事例では、大阪市の「あべのハルカス」で行われた学園祭で、学生団体と培地を使ったワークショップを実施。リアルなイベントで服のリサイクルを親子に体験してもらい、楽しい取り組みとなったそうだ。   本取材で初めてその魅力と可能性を知った「TUTTI」。今、循環型社会の実現に向けて様々な主体が様々な形でアプローチする中、際立ってユニークなアプローチをしていると感じられた「PLUS∞GREEN PROJECT」。 メンバーの思いにふれ、チームのゴールやアクションプランが大阪から日本を飛び出し、世界にも伝わればと願わずにいられなかった。 アースコンシャス社の青山さん、スタイレム瀧定大阪社の阿多さんが揃って話したように「万博はひとつの通過点」。 私は私の出来ることから、普段の衣服の消費行動をいかに「循環型」に近づけるかを、今日からすぐに実践していきたい。   取材にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 「PLUS∞GREEN PROJECT」の共創チャレンジはこちら

    続きをみる

  • 「プラスチック焼却ごみをなくす。ごみとなるものは運ばない」

    「2025年の未来に託す1GOAL&1ACTION」。初回はEXPO2025博覧会、テーマパークや競技場などのイベント会場で石油由来のプラスチックを環境にやさしい植物性、生分解性プラスチックに置き換え、普及・展開を目指す「ZerOウェイスト」の皆さん。メンバーの皆さんそれぞれの目標と、続ける・つながる「サス活」に迫りました。 ライター 腰塚安菜   チームの1ゴール: 「プラスチック焼却ごみをなくす。ごみとなるものは運ばない」   今回のインタビューは協和株式会社・Bioworks株式会社(以下バイオワークス社)・シンクピアジャパン株式会社の3社から多くのご参加者に出席いただいた。話を聞いて驚いたのは、各社がそれぞれの役割を明確に意識し、チーム「ZerOウェイスト」を編成していたこと。チーム内で「共創」の形をとりながら、プラスチックの焼却ごみを無くすことと、ごみとなるものを運ばないこと、2つのアプローチで地球温暖化対策につなげる共通目標を持っていた。   ■環境にやさしいプラスチック「ポリ乳酸」の普及を目指して   はじめに、大阪府高槻市に根差す協和株式会社の原田淳一さん(機能性材料推進部)は、チーム内の各社の役割を説明してくれた。   協和社では、生分解する環境にやさしいプラスチック「ポリ乳酸(PLA)」を普及し、その使い方を提案する役割を意識してきたという。「ポリ乳酸」開発企業のバイオワークス社、それと組み合わせる、後述の「生分解装置」を担当するシンクピアジャパン社の3社タッグで生まれたのが、チーム「Zer0ウェイスト」(*)だ。 *チーム名には、プラごみ「ゼロ」という目標に、パッと見た時の字面の印象でユニークネスも付加したメンバーの皆さんのこだわりが反映されているとのこと。   「ポリ乳酸」という素材には、まだ馴染みのない読者もいることだろう。   バイオワークス社で営業を担当する三宅禎輝さんによると、古くからあった「ポリ乳酸」は、ここ3年で急速に脚光を浴び、問い合わせが増えているそうだ。同社では、それまで使い勝手に乏しかった生分解性の素材の物性を自社技術で改質。タオル、マスク、ルームウェアなどのアパレルへの展開等、繊維商品での活用幅が次々と広がっている。秘密は同社がつくる「独自の添加剤」。これにより商品が長持ちし、繊維が高機能になったという。     ■「自然界の微生物で処理しよう」。シンクピアジャパン社のごみ処理のこだわり   次に生分解装置のパイオニア、シンクピアジャパン社長 松岡清次さんにお話を聞いた。15年前、ごみ処理機の販売をスタートさせてから今日に至るまで、企業にも生活者にも徐々に価値を知ってもらえるようになってきたという。前提として「綺麗なペットボトルなどはリサイクルできるが、一方でマヨネーズのように汚れたプラごみ容器は、自然界の微生物で処理が困難なため分別して処理する必要がある」と教えてくれた。同社ではこれをテーマに「エネルギーを使わず、CO2を出さずにごみを無くすこと」にアプローチしてきたそうだ。   中でも興味をひかれたお話は、その汚れた生分解性プラスチックごみや生ごみを箱の中で分解する「微生物のおうち(担持体)」へのこだわり。ごみを熱ではなく、自然界の微生物の力で処理する装置で、これにより同社のキャッチフレーズ「運ばず・燃やさず・その場で処理」を実現してきたそうだ。松岡さんの「(バイオワークス社、協和社とのコラボでつくった)微生物が食べやすいトウモロコシ、サトウキビ製素材で、微生物の“おうち”も生分解性になった。」そんな表現で、これまで話に聞いてきた「生分解性」という言葉への小難しい印象が変わり、とても身近に感じられた。     チーム「ZerOウェイスト」からの続ける・つながるアクション提案: 素材を扱うバイオワークス社(新田和也さん)からのサス活提案は「使いにくかったポリ乳酸を自社の添加剤の技術で実現した、普通のプラスチックと変わらない素材の品質を知ってもらい、積極的に導入・活用してもらうこと」。「使いやすくて普通のものと見た目も変わらない。添加剤自体も限りなく100%植物由来かつ生分解性で安心だから、広く採用してほしい」と強調した。今後、テーマパークや競技場など、身近なイベント会場、もちろん大阪・関西万博会場でも「環境にやさしいプラスチック」が広がっていく展開に期待したい。   「素材をカタチにする」協和社(原田淳一さん、廣田祐司さん、前田徹さん)からは、色々なカタチにすることができる「ポリ乳酸」素材を今まで使えなかった部分にも使ってもらい、世の中に浸透させていくアクションを、自社「サス活」として提案。一方、ポリ乳酸は一般的に使われる安い樹脂より値が張るため、コストも無視できないという課題もあるという。その上でも「環境にやさしい素材」であることを理解いただき、導入を検討してほしいと抱負を語った。   最後に、シンクピアジャパン社 社長 松岡さんからは、インタビューで強調した装置改革で「『微生物の “おうち” (前述の「担持体」)ごと生分解性にしたこと』が、ここ1年での1アクション」とユニークな表現で自社のサス活を提案してくださった。これまでは2年に1度ほど、その微生物の “おうち” 自体をごみとして出ていたが、ごみにならない植物由来に変えたことで、投入したごみも、“おうち”もごみにならない仕組みに。徹底的に「全部出さない」を、他に先駆けて実現させていることが強く印象に残った。   また、ごみといえば「分別」を我々は想起しやすいが、今回のインタビューで、松岡さんを始め、3社のご参加者からの発言で、何度も飛び出したのが「なくす」、「運ばない」というキーワード。いわば、ごみ課題への2つのアプローチだ。 松岡さんは、ごみを「出さず、なくす」以上に「運ばない」手段の選択も強調。例えば、地方では山の麓からごみを輸送する行程がつきもので課題となってきたというが、シンクピアジャパン社の「運ばない」考え方に共感する自治体(長野県立科町など)とは、共創で課題解決にむかう取り組みが既に進行中とも紹介してもらった。   サス活を提案するEARTH MALLの視点では、協和社の原田さんが締めくくりに話した「プラスチックを扱ってきて、ご飯を食べてきた」という言葉にもう一つヒントを得たと感じる。原田さんのように、プラごみ0アクションを単発のイベント限りで終わらせず、ライフワークとして向き合う人が増えることも、プラごみ課題に対して「これから何かを始めなければ」という人にとって、1つのアクションヒントとなるのではないだろうか。   世界的にプラごみが問題視される今、チーム「Zer0ウェイスト」が掲げる共創チャレンジは、万博会場でも注目を集めるだろう。2025年まで追い風を受けて羽ばたく取り組みの大きな可能性を感じさせた。   取材にご参加いただいた皆様、ありがとうございました。 「ZerOウェイスト」の共創チャレンジはこちら

    続きをみる