企業が人権擁護という社会的責任を果たすために取り組むべき「人権デューデリジェンス(以下、人権DD)」は、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)に基づき、人権侵害リスクの特定、防止、軽減、及び是正を目的とする一連のプロセスを指します。
人権DDの目的は、自社やグループ企業、取引先、サプライヤーなどの事業活動に関連する人権侵害リスクを評価し、これに適切に対応することで、人権尊重を事業運営の中核に据えることです。このプロセスは、単発ではなく継続的かつ動的に行われるもので、以下の4つの主要なステップで構成されます(経済産業省「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」参照)。
1. 負の影響の特定・評価
企業は、自社の事業活動全体を把握し、事業領域を区分けした上で、人権侵害リスクを特定し、評価を行います。この場合の「リスク」とは、企業にとっての経済的利益に関連するリスクではなく、人権への負の影響のリスクを指します。たとえば、強制労働、児童労働、差別、労働者の健康や安全への配慮不足などが該当します。
2. 負の影響の防止・軽減
企業は、特定したリスクについて、自社が直接的または間接的にそのリスクを引き起こしているか、助長しているかを検討します。その上で、負の影響を防止または軽減するための具体的な措置を講じます。このプロセスでは、リスクが複数存在する場合、リスクの重大性や差し迫った影響度を基準に優先度を定め、対応を進めることが重要です。
3. 取組の実効性の評価
防止・軽減措置を講じた後、それらが適切に機能しているか、目標を達成しているかを評価します。この際、定量的・定性的な指標を活用し、ステークホルダーからの意見を取り入れるなど、透明性を確保した評価を行うことが求められます。
4. 説明・情報開示
最後に、取組の成果や進捗状況、残存する課題について、ステークホルダーに対して説明し、適切な情報開示を行います。この情報開示は、「指導原則」において推奨される透明性の確保と説明責任(アカウンタビリティ)を果たすための重要な手段です。