近年、企業が「ビジネスと人権に関する指導原則」(指導原則)に取り組むことが要請されていますが、中小企業の中には、それは大企業への要請にすぎず、事業規模が小さく社会に与える影響も少ない中小企業には関係がないと認識している企業もあるようです。
しかし、中小企業であっても、「ビジネスと人権」に取り組み、人権を擁護し、持続可能な社会の実現に向けた課題の解決に貢献することは、社会全体から求められています。
まず、ESG投資を重視するようになった多くの大企業が、取引先である中小企業に対してもESGリスクの有無を調査し、よりリスクが少ない中小企業との取引を選択するように意識が変化しているため、人権擁護の取り組みに対応できていない中小企業は取引から排除される可能性があります。
また、求職者の就職志望度にも、給与や福利厚生だけではなく、企業の社会貢献度の高さが影響するという調査結果もあり、人手不足に苦しむ中小企業にとって、従業員の人権擁護への取り組みを積極的に行い、人材を獲得し、維持するための重要な要素となっていることが分かります。
さらに、消費者や顧客の意識も変化しています。消費者庁による2020年消費者意識調査報告書からも分かるように、消費者は消費行動を通じて、社会的課題に対する影響を考えるようになりました。すなわち、企業の「ビジネスと人権」への取り組みが、消費者の購買行動に直接の影響を及ぼすようになってきているのです。
とはいえ、中小企業は、大企業と異なり、「ビジネスと人権」に取り組むための人的な余裕がなく、資金的な余裕もないことが多いと思われます。また、「人権擁護」という抽象的な目標では、具体的に何を、どうすべきかよく分からないと思います。
そこで、私たちは、中小企業が「ビジネスと人権」に取り組むにあたり、弁護士がどのようなサポートを提供できるかについて、様々な提案を行っています。その一つが、「人権DD(人権デューデリジェンス)」です。
「人権DD」とは何か、この後の記事でご説明していきます。