私たちの共創チャレンジ
近年,地球規模での海水温の上昇や水質変化が引き金となって、天然に自生している海藻は減少し、海洋生態系に波及した海の砂漠化が深刻な問題となっています。このような背景のもと、私たち海藻ラボは、海藻と海のバクテリアの共生関係に着目した海藻の安定培養に取り組んできました。そして、現行の海面養殖とは全く異なる陸上での養殖システムを開発し、現在は通年的に2種類の食用海藻を陸上養殖しています。太陽と天然海水を利用することで、持続可能な最先端の養殖システムです。
日本の領海面積は世界6位で、近海には1,500種類もの海藻が自生しているといわれています。海藻は健康維持にとって重要なミネラルやビタミンを豊富に含むことから、日本では海藻を習慣的に接収する食文化を古くから築いてきました。そのため、昨今の環境変化により減少を続ける海藻資源を安定生産し、豊かにすることは、国内マーケットを活性化するだけでなく、日常的に海藻を食するアジアの国々をはじめ、近年、健康食として海藻が注目されている欧米など、世界の食と健康に貢献できるチャレンジです。
一方、海藻は、光合成により大気中から海水に溶け込んだ二酸化炭素CO2を吸収して成長するため、海藻そのものが優れたブルーカーボンです。海藻のCO2を吸収する能力は高く、年間の人為起源CO2排出量の約30%を吸収するといわれています。最近では、CO2の増加により、気温や海水温の上昇だけでなく、CO2が海水に溶け込むことで引き起こされる海の酸性化も問題化しています。そのため、環境変化に対応した新たな海藻養殖技術の開発やそのシステムの拡充は、豊かな食生活を実現するだけでなく、持続可能な社会や環境の再生に寄与します。
未来への宣言
有史以来、人間は自然と共生してきました。
先人から引き継いだ、この地域、この国、この地球を、未来へつなげていくのが、現代を生きる私たちの使命です。
・海藻ラボの陸上海藻養殖システムで、日本の食文化を守り、海藻食マーケットを豊かにします
海藻食の歴史は古く、大和朝廷時代には神事の供物としても重宝されてきました。欧米等では、健康的で持続可能な食材として、今、海藻食が注目されています。
・養殖量の拡大により、海水温の上昇、海洋酸性化の進行を抑制し、地球温暖化防止に貢献します
海藻は、優れたブルーカーボンです。養殖量を拡大することで、CO2削減への貢献度を高めます。
・海藻陸上養殖の研究を進め、環境調和型の持続可能なシステムを開発します
学術機関との共創をさらに深め、地球の未来に、より貢献できるシステムへと進化させます。
・陸上海藻養殖システムの展開地域を拡大し、より豊かな未来社会を実現します
太陽光とその地域の海水のみで陸上養殖するシステムは、資源の乏しい地域・国においても、その地域の海洋環境に適合した海藻を選択することで、容易に展開できる可能性を秘めています。
きっかけ
これまで、海藻の養殖や育種改良に関わる技術開発は一部の種に限られており、陸上植物の栽培と比べて大きく遅れてきました。原因は、海藻の種苗を安定的に培養し維持管理することが、陸上植物に比べて困難であるため、病害に強い品種や、変わりゆく海洋環境に適した品種の開発に関わる基礎技術が発展し難かったことを挙げられます。こうした中、2016年に徳島文理大学薬学部兼生薬研究所の山本博文教授が、海藻に付着するバクテリア(海藻-バクテリア共生関係)に着目し、海藻の付着バクテリアが生合成する藻類成長促進因子を利用して、食用海藻の新たな種苗培養法を開発し、水槽での短期間養殖に成功しました。当時、この技術はメディア等でも取り上げられ、衰退を続ける海藻養殖産業の復活をかけた革新的技術として注目されました。その後、海藻養殖の専門家である徳島大学バイオイノベーション研究所の岡直宏准教授が加わり、鉄分を豊富に含む紅藻の陸上養殖や水槽養殖での生産効率に関わる技術開発が推進されてきました。
一方、日本の海産物に占める養殖割合は20%程度で、養殖が約50%を占める世界漁業生産と比べると、圧倒的に低値です。そのため、水産資源減少に対する国内対策として、早急に養殖比率を上げていくことが求められてきました。私たち海藻ラボのグループ会社は、70年以上に渡り、海藻を主原料としたつくだ煮の製造を行ってきました。その一方で、年々減少し、不安定化する海藻原料マーケットの将来に危機感をいだいてきました。このような背景もあり、 徳島県水産業の成長産業化及び関連産業の振興に関する協定(マリンサイエンスゾーン協定)のもと、徳島県を含め、産学官の共創がスタートし、2018年10月に、陸上海藻養殖の研究と実用化を目指す海藻ラボ株式会社を設立しました。
大阪・関西万博のテーマとの関わり
「いのちを救う(Saving Lives)」
食は、命の根源です。海藻の育成は、太陽光とその土地の海水のみで行えるため、資源の乏しい地域・国においても、ビタミン、ミネラルなどの栄養豊富な海藻の生産・供給が可能となります。
海藻ラボの陸上海藻養殖システムは、その地域の海洋環境に適合した海藻を選択することで、日本国内のみならず世界中に展開できる可能性を秘めています。
「いのちに力を与える(Empowering Lives)」
大和時代から続く海藻の習慣的な摂取は、日本人の健康を支えてきました。その海藻生産量は、年々減少おり、供給量の増加が求められています。
海藻は、光合成により、海水中の二酸化炭素CO2から効率的に炭素Cを吸収・固定化し酸素O2に変え、海水温の上昇や海洋酸性化に対する抑制効果が期待されます。
陸上海藻養殖は、健康な食生活と地球温暖化問題の両方に貢献します。
「いのちをつなぐ(Connecting Lives)」
海藻食は、中国、韓国、フィリピン、マレーシア、タイなどアジアの国々、また、ハワイやアイルランドなどの諸島でも昔から日常的に食されており、近年は、健康食として、また、持続可能な食材として、欧米での注目度が上昇しています。
陸上海藻養殖システムは、環境負荷が少なく、持続可能なものです。人類の食を豊かにし、同時に海の環境も豊かにします。