視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)設立20周年記念イベント
令和版「風土記」を作ろう!
大阪から世界へ広がる「発想・発信・発見」のネットワーク
コロナ禍を経験した僕たちは今、あらためて「風」と「土」の大切さを実感している。そうだ、僕たちの手で令和版の「風土記」を作ろう。この新たなる「風土記」作りの主役を担うのが、いや担わなければならないのが視覚障害者なのだ!
視覚障害者文化を育てる会(4しょく会)が発足したのは2001年11月です。本来ならば昨年、設立20周年記念イベントを行う予定でしたが、コロナ禍のため延期を余儀なくされ、1年遅れでの開催となります。スタッフ間で議論を重ね、ようやく20周年イベントの告知ができること、感無量です。ここまで4しょく会を支えてくださった会員のみなさん、関係各位に感謝いたします。多くの方に記念イベントへご参加いただき、本会の20年の歩みを振り返るとともに、30年をめざす決意を共有できれば幸いです。
20周年のテーマとして、僕たちは「風土記」を掲げることにしました。「風土記」は8世紀初頭、律令制国家が成立・発展する過程で、各地域の歴史・神話などがまとめられたものです。地名の由来、特産物、古老の伝承などが具体的に記録されている「風土記」は、文字どおり「風」と「土」の報告集といえるでしょう。風とは「その場に行かなければ感じられないこと」、土とは「目で見るだけではわからないこと」と定義できます。
オンライン会議、リモートワークなどの「新しい生活様式」は、僕たちから風を味わう喜びと楽しみを奪いました。でも、コロナ禍が僕たちにもたらしたのはマイナスばかりではありません。人と人の触れ合いから生まれるコミュニケーションが大事であることを再確認できたのは、コロナ禍のプラスの側面といえるのではないでしょうか。土の温度や重さ、質感は、目で見るだけではわかりません。複雑で微妙な土の感触は、デジタル情報として伝えることができないものの代表です。
4しょく会はこの20年間、「風」と「土」にこだわる活動を続けてきました。近代化の閉塞が各方面で指摘される現在、既存の社会システムを打ち破る価値観・人間観が求められています。4しょく会が創造する令和版の「風土記」は、きっと21世紀の日本の国家像を描く手がかりとなるでしょう。
今回の記念イベントは三部構成です。第一部「風の巻」では、柴崎友香さんにお話をうかがいます。柴崎さんは大阪を舞台とする数多くの小説・エッセーを発表しておられる作家です。「町=誰かが生きた跡、その積み重ね」の姿をビビッドにとらえ、過ぎ去った時間の上に再生し続ける「町」の魅力を描き出すのが柴崎さんの多彩な作品世界の特徴といえます。大阪は視覚障害者文化の拠点であり、4しょく会も大阪の風を意識してイベント企画に取り組んできました。「視覚障害者文化を育てる」とは、視覚障害者がごく自然に「町」で暮らせるための環境整備であり、障害の有無に関係なく、十人十色、「まちまちの人々」が集うことによって「町」の奥行きが増す実証実験の試みといえるのかもしれません。大阪に育てられ、大阪を育てていこうとする柴崎さんから大阪の風の可能性をお聞きし、そのエッセンスを視覚障害者文化に結び付けていくのが第一部の主題です。
第二部「土の巻」では近代の視覚障害者文化の源流を探るとともに、大阪発の視覚障害者文化の新展開を図る条件について議論します。大阪は日本ライトハウス、「点字毎日」の発祥の地です。4しょく会の20周年イベントの中で、ライトハウスの創業100周年、「点字毎日」の発刊100周年を祝うことができるのは僕たちにとって大きな誇りであり、これもコロナ禍の副産物といえます。医学の進歩により、視覚障害者全体の数、点字ユーザーが減少する流れは、今後も止まらないでしょう。率直なところ、ライトハウスや点字毎日の未来はけっして明るいとはいえません。両施設が200周年を迎えるためには、「土」を発見・発信していく精神が不可欠だと考えます。「目で見るだけではわからないこと」を掘り下げる姿勢から、視覚障害者文化が存続・発展するヒントが得られるはずです。第二部では「点字毎日」編集長の濱井良文さん、日本ライトハウス情報文化センター館長の竹下亘さんをお招きし、4しょく会スタッフとの対話を通じて、「視覚障害者文化の土台となる施設が大阪にある理由、大阪になければならない意味」を考察します。
「風」と「土」を体感し、そのリアルな触感を記録するのは人の役割です。第三部「記の巻」では4しょく会スタッフが会の理念である四つの“しょく”(食・色・触・職)に即して、各人各様の思いを発表します。「風土記」作りを担う僕たち個々の言葉は、30年へと向かう4しょく会の力強い第一歩になるでしょう。柴崎さんは「明日はいつもなにも知らせないでやってきて、気がつくとまた今日になっている」と述べておられます。会員数を増やすこと、若手スタッフを育成することは、もちろん4しょく会の大きな課題です。しかし、まずは僕たち自身が自らの手・足・頭を駆使して日々の会活動を充実させていくことが肝要なのではないでしょうか。「風」と「土」に戯れる4しょく会の今日の記録が、視覚障害者文化の明日を切り開くことをここに高らかに宣言します。
「目に見えない」新型コロナウイルスの登場で、「目の見えない」僕たちの心は確実に鍛えられた。さあ、今こそ「目の見えない」者たちが主導する「目に見えない」心のネットワークを大阪から世界へ広げよう!
日 程
13:15~13:45 会場にて受付
13:45~13:55 開会挨拶、趣旨説明
13:55~14:55 第一部「風の巻=大阪からの発想」
(柴崎友香さん、広瀬浩二郎)
14:55~15:05 休憩
15:05~16:20 第二部「土の巻=大阪に根差す発信」
(竹下亘さん、濱井良文さん、奥野真里、佐木理人)
16:20~16:30 休憩
16:30~17:05 第三部「記の巻=大阪ならではの発見」
(4しょく会スタッフ一同)
17:05~17:20 会場からの意見・コメント、質疑応答
17:20~17:30 閉会挨拶、30周年をめざす決意表明